オーディオと楽器

仕事柄、周囲にはクラシック音楽業界関係者がけっこういる。しかし、不幸なことにオーディオに詳しい知り合いは2、3人しかいない。演奏家が大金をつぎ込んで自分の使う楽器にこだわるのに、その演奏をプロモートしたりコメントつけたり感想文を書いたりしたりしている業界の人間は再生する装置には意外に無関心なのだ。完成品情報には詳しい人間はいるようだが、彼らにしても評判のいい機材を買い揃えておしまいというのがほとんどだ。自分も1年前まではそうした人間のひとりだったわけだが。強引な比較だが、弦楽器奏者が響きのいい弦を手に入れたり、管楽器奏者が木目の細かい上質のリードを探して自分で加工する努力をしているならば、聴くほうの人間だってケーブルにこだわったり、再生される音を加工する努力をしてもいいんじゃないか。そう考えたのがきっかけで、この1年でずいぶんオーディオに投資してしまったわけだが、クラシック関係の人間には限界があるということに最近になって気づいた。つまり、彼らは自分も含めて、電気楽器を扱ったことがないのだ。id:Naryさんをはじめid:mandanaさんのところに集う人たちの中にはギター・アンプをはじめとする電気回路に慣れているか、少なくとも抵抗がない人が多いのだと思う。電気回路を勉強するならとNaryさんに勧められた本が自分で編集した本だったなんて、洒落にもならないことが起こるのも、音楽は電気回路など知らなくても機械が勝手に鳴らしてくれるものだということを、なんの疑いもなく盲信していたからだ。この話は考えると長くなりそうなので、あとひとつだけ付け加えれば、クラシックは徹頭徹尾、再現芸術であって、作曲家→楽譜→演奏家→聴衆という一方的な流れがあっての逆の過程はないということが、オーディオに対してもつねに受身の姿勢でいるということにつながっているのだと思う。
というわけで、数少ない俺の周りのオーディオ通を自称する人間も、球やコンデンサを交換したり、回路を知ろうと考えたりはしないわけだ。