樽スピーカ視聴記

Windsで聴いてきた樽スピーカのインプレを書く前に、渡りに船的に、あるいは神の予定調和的にid:mandanaさんから樽スピーカを譲り受けることになってしまった。それが届いてから書いてもいいのだが、システムも環境も違うから、書く意味はあるね。
Windsには2A3シングルと14GW8のPPのSV-9Tという2つのパワーアンプがあり、ソースを替えながらそれぞれによる鳴りっぷりをじっくり聴いてきたわけだが、そのほかの機材についてはWindsのHPに載ってるので、気になる人はそっちを見ていただきたい。樽スピーカのユニットはSA/F80AMG。まずは、耳をすっぽんぽんにして素でJAZZを聴いた印象は、驚くほどよく鳴る。高域から低域まで目をつぶって聴けば、だれも8cmフルレンジから出てる音だとは思わないだろう。それほど音に余裕がある。鳴るだけではなくて、音の存在感がピシッと決まるし、音像も曖昧なところがない。とくにピアノの音色やタッチなどそこいらのハイエンドメーカーの実在感のない無機質な音に比べたら、月とスッポンほど違う。これにはほんとうに驚いた。「ピアノの音が素晴らしいですね」と村瀬さんに言ったら、やはり村瀬さんもそこにこだわったという。
ここで村瀬さんのことについて書くべきだろう。村瀬さんはペンションを始める前は、ヤマハでピアノやギターの木材の調達などの仕事をしていたという。つまり、ピアノの響きには相当のこだわりがあったわけで、それがこのスピーカの音決めにも活かされているということだろう。さらに、そうした経験があってこそ「樽」という素材を活かすことができるわけだ。樽材の特徴は、ふつうの木材よりも維管束に残っている水分が少ないために、空気の含有量が多いという。アルコールが揮発するときに水分もいっしょに蒸発させるわけだ。息を吹き込むとストローみたいに空気が抜けるそうだ。このスピーカの響きの豊かさにはそうした素材の性質がおおきいのだ。なるほどいちいち納得である。
と、まあ、ここまではいいことだらけなのだが、現地からちょっと書いたように、クラシックだと突っ込みどころがけっこうあるのだ。JAZZではあれほど締まりのよい力強い低音を聴かせていたのに、クラシックだと低音が響き過ぎてチェロ/バスに締まりがなくなる。低音を制御しきれない感じなのだ。内振りを強めてもらったら、少し改善はされたが、それでも響き過ぎる。村瀬さんに感想を述べたら、翌日上高地から帰ってくるまでの間に吸音材を20パーセントほど多く入れて調整していただいていた(こういう気遣いにはほんとうに感謝!)。さらにリアバスレフのせいもあるだろうということで「きょうスピーカの後ろの壁用に吸音ボードを注文しました」という。なんか、申し訳ないことを言ってしまったかもしれない。で、吸音材の効果は期待したほどではないが、たしかに改善はしたようだ。もうひとつ気になったのが、ヴァイオリンなどの高音域なのだが、これは逆にうまく箱が鳴らずユニットそのものの音が気になる。同じ高音域でも弦楽器以外はそれほど気にならないのだが、おそらくそれは楽器の音色のせいだろう。さらに2日目にはHi-Vi Reserchのユニットを付けた別ヴァージョンの樽スピーカも準備してくださったが、こちらはSA/F80AMGよりもソフトな音になった。2つのアンプによる聴き比べでは、SV-9Tのほうが2A3シングルよりも芯が通った感じになるが、クラシックでは2A3のほうがあってるような気がする。
−−というのがおおよそのインプレなのだが、JAZZやピアノで素晴らしい再現性をみせてクラシック系で粗があるのは、このスピーカが撥音系の音に強く、弦のARCOのような持続する音に弱いということからきているようだ。これも村瀬さんがピアノの素材を吟味する仕事をしていたりJAZZがお好きだったりするから、音決めする際にも自然とそういう傾向の音づくりになるのだろう(id:platycerusさんが絶賛するのも同じですよね)。しかし、これはけっしてマイナス評価ではない。作り手の主張がはっきりしているスピーカは聴いていて気持ちがいい。オールマイティに鳴るスピーカほどつまらないものはない(うちのDALIでROCKなんか聴けたもんじゃない)。方向性がはっきりしてるから、このユニットでここまで音を突き詰めていけるわけであって、それこそ村瀬さんが音づくりの職人である証なのだと思う。
付け加えれば、樽スピーカはある程度パワーをかけて鳴らしてあげたほうが音離れもよく、実在感もぐっと出てくるので、小さい割に広い空間が必要だと思う。
さて、問題はmandanaさんのところから嫁いでくる樽スピーカがうちではどう響くかなのだが、DALI Royal Towerとはまったく方向性が異なるから楽しみである。おそらくじゃじゃ馬馴らしのような感じになるだろうが。
ところで、耳寄りな情報。村瀬さんは樽スピーカの第2弾を企画中である。何センチのユニットを使うかなどの詳細は「まだ秘密」だそうだが、楽しみだな。つぎはクラシック向きの音づくりにならないかなぁ。