アクセサリとお猪口

昨日、事務所に知り合いが新潟の日本酒を持ってやってきた。当然、酒宴が始まった。私がもの足りないほど日本酒臭さがない酒だと言うと、彼は臭いと言う。彼と私は日本酒については好みが近く、これほど意見が食い違うこともめずらしいので(お互いに言い張ったら聞かない性格なのだ)、じゃ猪口を替えてみるかということになった。するとどうだ。互いの言うとおりなのだ。俺はガラス製の猪口で飲んでいて、彼は素焼きに近い陶器製の猪口で飲んでいたのだが、たしかに陶器製の猪口だと独特の日本酒臭さが強く感じられる。これには驚いた。たしかに、猪口によって酒の味が変わるのだと書いていた文人の文章も読んだこともあるが、そんなもの酔狂な趣味人が薀蓄をたれるための方便にすぎないだろう、と半信半疑だったのがウソのように違うのである。で、すぐさま頭に浮かんだのが、「ケーブルによってオーディオの音が変わるのだ」とか、「インシュレータの材質によって音が変わるのだ」とかいう、われわれがふだん当たり前のことのように考えていることだ(そういえば、何とか焼きの猪口を逆さにしたような手が出ないくらい高いインシュレータがあったな)。酒飲みが猪口にこだわるのもオーディオマニアがアクセサリにこだわるのも、それに気づかなければ、まったく違った味の酒を飲んでいたり、違った音を聴いていたりするということでは、同じことなんだね。ガラス製と陶器製では素材の密度が違って、酒を注いだ時に空気に触れる表面積が異なるわけだが、これからは酒を飲むときにもいくつかの猪口で変化を楽しむという楽しみもありだな。