恐るべし300B

TU-873LEを聴いている。自分でキットを組み立てたというのはまったく埒外の問題として、出てくる音に感心している。回路図なんか見ても、整流管と出力管をカップリングコンデンサでつないだだけというごく単純なものなのに、ある局面ではMC805AAをしのいでいる。シンプルなだけにストレートに300Bの音が出ているのだろうが、となるとこの300Bという真空管は世評に違わぬとんでもない真空管だ。MC805AAとTU-873LEのアンプとしてのパワーと物量による再現力の違い、たとえばダイナミックレンジの広さとか細部の音の煮詰め方を考慮せずに、単純に音の性格だけを比較すれば、俺には明らかに805よりも300Bのほうが音楽的に聞こえる。まず、低域から高域までのバランスが見事である。低音が垂れ流しにならず底から突き上げるような締まりと制御がある。そして音の空気感。805AAの印象を音の輪郭と表現したが、300Bの場合は空気の震えだ。ゆえに木管楽器のざわざわした空気の揺れや弦楽器の胴の鳴りが非常にリアルだ。全体的に音に深みがあり奥行き感もよく出る。id:mandanaさんが以前サンバレーのSV-501SEの音を「明晰で峻厳な音」と表現されたが、そうした300Bの利点を煮詰めて製品に昇華さえていけばきっとそんな音になるだろう。
ただ改めていっておくが、MC805AAとTU-873LEのアンプとしての比較ではない。やはりパワーメリットはMC805AAのほうがはるかに上だし、細部の煮詰め方についても、873LEはやはり300Bのメリットを100パーセント生かしているとは言えないと感じる。まだそれが何かはいえないけれど。しかし、それでも音楽表現の見事さはときに感動もので、聴き惚れて目頭が熱くなる瞬間がある。はじめは、これでいいサブアンプができたと思ったが、それはとんでもないことで、これはこれで充分メインとしての存在感がある音だ。恐るべし300B。