jinson TDA1541トランスI/VDAC

先日のNOS-DAC視聴会でお預かりしたjinsonさん製作のTDA1541球DACきとTDA1541トランスI/Vだが、同じ1541なのにまったく方向性の異なった音がする。jinsonさんご自身もそれを意図されたようだが、ここまで違った音のものを製作できるというjinsonさんの技術力にまずは驚かされた。回路がどう違うかは俺にはわからないが、基板回路のデザイン段階でこの音の違いを意図されたとしたら脱帽である。
で、具体的な話。ソースについは、俺がある程度責任を持って言えるジャンルはやはりクラシックなので、以下はすべてクラシックの音源によるものだ。
視聴会でJAZZを聴いたときに、直感的に1541トランスI/Vはクラシックに向いていると思ったので、まずトランスI/Vのほうから聴いた。主なソースはオスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団によるシベリウスの交響曲第2番弦楽合奏木管楽器の音をレファレンスするにはこいつがいい。この曲はコントラバスニ長調の基音=Dの音を3小節ごとにひと休みしながら12小節の間4分音符で奏し続け、同じ音型でその他の弦楽器が和音を重ねていくことでモティーフが形成され、その上に木管による第1主題が続くという始まり方をする。つまりもっとも低いコントラバスの音が肝になっているわけで、単純な始まり方の割に、演奏する側もこのコントラバスとほかの弦楽器のバランスをどうとるか気を使う。で、こちらもそこに着目して聴くわけだが、1541トランスI/Vだと、そのコントラバスがよほど注意を向けないと聞こえてこないので、ちょっと拍子抜けする。もちろん、オーディオ的に言ってカマボコ型であればいいというのではないが、同じ演奏者によるこの曲を演奏会で数回聴いている記憶からしても、このバランスは低音が弱いと思う。ほかの部分でも、例えばこの曲にはヴァイオリンとチェロによるオクターヴ・ユニゾン(同じ旋律を高音と受け持つ楽器と低音を受け持つ楽器で演奏する)が頻繁にあるのだがバランスがヴァイオリン寄りになる。全体としても、たとえは悪いが、トーン・コントロールの低音を絞ったようなトーンバランスで聴いているようで、木管金管の芯も弱くきこえてしまう。しかし、それは俺のシステム、とくにトランスポート代わりに使っているCDPとの相性に問題があるかもしれない。もうひとつ気になるのは、音の上下側の広がりが乏しいこと。上のほうに位置しなければならない木管金管、打楽器などが弦楽器群と同じ高さにならんでしまう。これなど、どうしてそう聞こえるのか俺にはまったくわからないが−−。と、耳に付いた弱点をもっともらしく長々書いてしまったが、いいところもたくさんある。なかでもすばらしいのは音の空気感。芯が弱いと書いた管楽器にしても、倍音が豊かで空気の震えなんかは演奏会場の静寂のなかで聴いているようなリアリティがある。弦楽器にしてもヴァイオリンのG線(いちばん低い弦)や弱いと書いたチェロ/バスの中域から高域にかけての胴鳴りは見事だ。視聴会で感じた予想どおり、音色的にはいま手もとにあるjinsonDACのなかでは、もっともクラシックの再生には向いていると思うので、ついついキツイことを書いてしまったが、上であげた弱点が改善されれば、これはぜひ手もとにおいておきたいDACだ。
−−じつは、id:platycerusさんから送られてきた金田式プリをつなげて試聴しながら書いていたので、1541球DACについて書く時間がなくなってしまった。明日また。