田部京子のシューベルト

ぐったり疲れた帰りの電車の中で、ふとこのCDが聴きたくなった。
シューベルト : ピアノ・ソナタ第18番 ト長調D894、Op.78「幻想」シューベルト/ピアノ・ソナタ第18番、第13番(pf)田部京子
シューベルトのピアノ・ソナタには、アファナシェフによる禁断のCDがあるが、さすがに疲れているときに聴くと、もうどうでもよくなって、あっちの世界に行ったまま帰ってこなくてもいいやっていう気になってしまうのでまずい。その禁断CDを別にすれば、俺はシューベルトソナタ田部京子の弾くものがいちばん好きだ。シューベルトソナタは此岸と彼岸の間にただようような音楽で、このあたりがわかっていないピアニストが弾くと、世俗的な匂いがぷんぷんしていやな音楽になってしまう。例えば巷では評判の高いポリー二の演奏なんか、ただ上手いだけで、世俗的までとはいわないが、とてもいい勉強をさせてもらいましたって感じでおもしろくない。たしかに新ウィーン楽派シューベルトと同じ風土の中で生まれたことはよくわかる演奏なのだが、そんな後付的な分析だと逆に、新ウィーン楽派の作曲家たちがもっている歴史感覚を超えた共時的な感性だって見えなくなってしまう。ベルリンでポリー二の弾くシューベルトの最後の3つのソナタを聴いたときなんか、あまりにつまらなくて、途中で帰りたくなった。その点、田部京子シューベルトはいい。いいたいことはたくさんあるのに、声高に表現しない。語られないことのほうに音楽の意味を見いだしている演奏だ。つまり音楽と沈黙が隣り合っている。アファナシェフだと沈黙の重さが半端じゃないから、きょうみたいな時には、田部京子の演奏が聴きたくなるわけだ。
ついでに案内しておくと、10月〜11月にはアファナシェフがシューベルト・プログラムとベートーヴェン・プログラムで全国でリサイタルを開き、11月19日と12月3日のリサイタルで田部京子シューベルトの21番のソナタを弾く。俺はアファナシェフの10月23日と30日のシューベルト・プログラムと12月3日の田部京子を聴く予定。12月3日のリサイタルは自治体主催で安いし、なにしろ歩いて5分のところなのがうれしい。

[追記]
ときどきあることだが、上記のCDが2枚あった。サンプル盤をもらったのを忘れて、自分でも買ってしまったらしい(^^;; もし、欲しい方がいらしたら差し上げます。