聴き納めと聴きはじめ

「マタイ」なんていう音楽史上の大曲を聴いたあとは、日をまたいでも、その後の数枚はあまり肩の凝らないものを聴くわけで、昼間はビーバーの「ロザリオのソナタasin:B00005FHM0、ヴィヴァルディの「四季」asin:B00005MS1Tいた。「ロザリオのソナタ」はバッハ以前にドイツ領内で活動していたボヘミア出身の作曲家ビーバーの代表作で、ドイツ・バロック期におけるヴァイオリン・ソナタの傑作のひとつ。演奏はラインハルト・ゲーベルとムジカ・アンティクヮ・ケルン。「四季」のほうお馴染みのあの曲で、演奏はカルロ・キアラッパとアカデミア・ビザンチナ。もちろん両者ともピリオド・アプローチによる演奏だが、ゲーベルにしろキアラッパにしろ、古楽器の世界では異端児的存在でかなり独特の解釈と演奏スタイルをもっている(ま、俺が好きな演奏家というのは正統派は少ないが)。「ロザリオのソナタ」のほうはバロック音楽が好きだという人には当時のヴァイオリンの技巧やスタイルを知る上では外せない曲なのでぜひおすすめする。「四季」はクラシック・ゴアには通俗名曲の代表みたいに言われるけれど、これも当時のヴェネツイアのヴァイオリン・ソナタのスタイルを知るには重要な曲だし、これほどよくできたソナタ集もないと思う。だいたい、通俗名曲の冠が付けられてしまう作品は、凡百の演奏家がつまらない演奏を繰り返してきた結果であることが多いわけで、このキアラッパの演奏を聴けば、いかにこの作品が「革新的」であったのかがよくわかるはずだ。これはだれにでも自信を持ってお勧めできる。これまでの「四季」のイメージを覆してくれること間違いなしである。キアラッパという人はバロックにも現代音楽にも通じているので(ベリオなんかも彼のために作品を書いている)、ただの古楽器演奏とも訳が違う。ゲーベルとキアラッパという2つの個性的な「四季」を聴き比べるのも面白いと思う。
聴き納めになったのは「officium」オフィチウム。ジャズ・サックス奏者のヤン・ガルバレクヒリヤード・アンサンブルカウンターテナーを含む男声4人)がコラボしたアルバムで、作品としては、中世のペロタン(ペロティヌス)、ラ・リュー、デユファイといった音楽史上の作曲家の作品や名の知れない修道僧作曲家の作品を集めたもの。同じECMで「Witchi-Tai-To」などコルトレーンに影響を受けたアルバムを出しているガルバレクが、中世の男声合唱の世界に誘発されて即興を加えているのだが、これがかなり気持ちいい。相変わらずマンフレッド・アイヒャーはこういうコラボを組むのがうまい。お勧めである。で、これを聴いているうちに12時を回ったので、結果としてこれが聴きはじめにもなった。