さがしもの、あるいは深夜の秋葉原

土曜日に久しぶりの友人に会った。ちょうど2年ぶりくらいか。
13:30から別の友人の出演するマチネー・コンサートを聴いて、待ち合わせまでのあいだ、秋葉原で1543えぴ用のケミコンと1541えぴ用のTRを買い、まだしばらく時間があるのでISHIMARUで先日亡くなったリゲティのCDを2枚買う。待ち合わせは淡路町ドトール秋葉原からは歩いて5分強といったところか。
目指すはその道ではかなり名の知れた居酒屋「みますや」昭和3年に作られたという典型的な看板建築の外観が濃厚な下町風情を漂わせる。神保町から秋葉原のある外神田、神田近辺は、幸運にも東京大空襲の標的を外れたおかげでそうした古い建物がまだ残っているのだが(藤森照信の「建築探偵団」による看板建築探訪第1号だった店も岩本町から秋葉原に向かう場所に位置している)、老朽化も進んで近年めっきりその数も減ってきている。「みますや」は事務所からでも歩いて15分弱なので年に数回足を運ぶ。いつも満席なことが多いのでわざわざ土曜日を選んで18時に店に入ったのだが、もうすでにかなりの賑わいだった。さすが人気店だ。
久しぶりの再会だったのでつまみもそこそこに話が弾み、あっという間に閉店時間になるという"長っ尻"パターンになってしまったので(土曜日は閉店時間が少し早いようだ)、2件目に突入。歩いて御茶ノ水方面に向かい山の上ホテルのワイン蔵モンカーブに向かう。余談だが、山の上ホテルは俺が結婚式なんて柄にもないことをやった場所でもある。すでにじゅうぶん適量は超えていたのでハーフボトルのワインとチーズで済ますつもりが、話は終わらないので調子に乗ってハーフボトル1本追加して終電を逸する。たまにはかるく羽目をはずすのもいいかぁ。で、あっという間の午前2時。ここでも閉店時間までねばってしまった。
で、酔い覚ましに24時間営業の駅前のデニーズ(だったかな)でコーヒーを飲んでいたら、なんでも、その友人がときどき知り合いの工作のパーツの買出しを代行して秋葉原に行っているらしい。仕事場が近いせいで頼まれるらしいが、「あそことあそこ」なんておなじみの店の名前がごろごろ出てくるわけ。2年前に会ったときにはお互いにそんな店があること自体知らなかったわけで、もともとまったく理科系に縁のないある種ディープな人文系分野で趣味を共有しているわれわれ2人ともが、そういう場所に出没していることが「手術台の上の自転車とこうもり傘の出会い」みたいなシュールな感覚で妙におかしい。
そこで表題ネタにつながるわけだが、2人とも秋葉原にい行けば必ずといっていいほど寄るある店の名前がどうしても思い出せない。「ほらほら、あそこ!」「あそこを曲がって●●の並びのあの店! 思い出せない!」「あ"〜ダメ〜」「う"〜」…なんてほとんど実体をともなわない高校生みたいな会話がつづくこと、たぶん30分ほど(ちなみにその友人は高校の後輩である:笑)。考えてみれば、御茶ノ水から10分も歩けはその店にいけるので、これもその場の勢いで確認に向かう。
中央線の線路脇に沿って御茶ノ水の坂を下り、昌平橋を渡りある角を曲がると「秋月」の看板が見える。その先に「あった!!!! ほら、千石だよ!!」「うわぁ、千石だよ! スッキリ〜」ってなもん。
いつもは、人波をかきわけて歩いている通りだが、さすがに午前3時にそんなところを歩いているやつがいるはずがない。あたりまえだが、この街にもこういう時間があるのだ。キリコかバルテュスの絵画のような妙な既視感をともなった時間が停止した風景が、俺たちを包み込んでいる。デルヴォーの絵画みたいな素っ裸の女がそこに立っていたとしても、ほとんど違和感を感じないような光景。これも余談だが、投稿雑誌なんかに誰もいない深夜や早朝のビル街で女の裸の写真を撮るという屋外写真マニアの写真が載っていることがあったが、彼らもこういう超現実的な空間に惹かれるんだろうな。
というわけで、疑問をスッキリ解消させたところで、タクシーに乗って帰路。
ほとんどバカである。