小旅行報告

 というわけで、はやばや夏休みの小旅行も終わっちまった。

 東京駅から新幹線で三島まで約1時間。そこで桜海老かき揚と生シラスというご当地名産の昼食をとり、メインコースが始まる。三島からローカル線に乗り修善寺温泉でバスに乗り換え、伊豆高原を下り土肥に出るというコースだが、洞窟めぐりの遊覧船にのりたいというので、初日はそのまま足を伸ばして堂ヶ島に向かう。土肥の海岸線に出てから約40分で堂ヶ島に着く。
 小さな漁船を改造した遊覧船は、おもったよりもかなり小さく不安になる。船は苦手なのだ。船酔いはしたことはないが、波に揺さぶられるあの感覚が底なしの海へ引きずられていくような気がしてどうしても軽い恐怖感がぬぐえない。これも脚もろくに立たなかったガキのころに2度も池におぼれて死にかけたときのトラウマである。案の定、船はけっこう揺れるれわけだが、天気のよい夏の平穏な海でこれなら、低気圧のさなかだったり強風だったりする日などぜったいに乗りたくない。

 荒波に船を出す漁師さんはすごいとおもうよ。もっとすごいとおもうのは、おそらく丸太を組み合わせただけのいかだみたいなので、何があるとも知れない海の向こうに行ってみようなどという無謀な夢を抱いた大昔の人たち。ここに残っていたら死を迎えるだけだといわれても、俺ならぜったいにそんな冒険はしない。集団を維持するためにそこで殺されようが、海に溺れて死ぬよりは何ぼもましである。…なんて妄想に近いこともかんがえながら船に揺られる。景観そのものはたしかにすばらしいのだが、たいていこういう場合、妄想を払拭して気持ちのゆとりが生まれてくるころに船着場に着くのだ。
 土肥に向かうバスのまでの時間、周囲の海岸線の岩山に登ったりしたわけだが、いつの間にか息子の体力の増進のほうが俺の体力の低下をはるかに上まわっていることを実感、追いつくのがたいへんである。もともと俺が高所恐怖症のせいもあるが(^^;;
 というわけで、来た道とは逆に海岸線を北上して土肥に着く。奥様が選ぶ宿泊施設は俺なら選ばないような高級宿泊施設なのにまたおどろく。同じ宿泊予算なら民宿に毛が生えたような場所に2日間泊まってグータラしているほうが好きなのだが、そのあたりは女性のほうが潔い。でも、たいていは奥様の意見に従ったほうが満足のいくリゾート気分は味わえるわけだけれども。
 たとえば部屋からの眺望。磯の岸壁に張り付くように立てられたホテルの部屋の眼下には波が打ち寄せているし、部屋から眺める駿河湾に落ちていく夕日はなかなかのもの。たとえば露天風呂。宿泊棟から岩場にめぐらされた回廊を数分歩いた岸壁に掘られており、こいつもむちゃくちゃ気分がいい。ただ、最近のホテルは女性客のほうを大事にしているから、女性用の露天風呂からのほうが、場所的におそらく景色はいいとおもう。男湯のほうからは夕日は見えないが、たぶん女湯のほうからなら水平線に落ちていく夕日が見えるのではないか(それに、女湯から下ってくる回廊からは男湯が丸見えだし…。これも女性向けサービスか・笑)。
 
 そしてたとえば、食事。夕食も朝食も部屋食でというのが奥様がいつもこだわるポイントのひとつ。さすがに海の食材は新鮮だし調理もうまいのだが、食いきれないほどの種類と量に圧倒されてしまう。ふだんは家ではあまり食べない奥様がこういうときには別人のように食欲が増進するから不思議である。アワビの残酷焼きなんか焼かれる姿をながめているとなかなかえぐいものがあるが、ガキのころに小学校で歪んだ生命教育を受けたせいでこういう類には拒絶反応をしめす息子なども平気で食すのも、場の力みたいなものか。個人的には、そのアワビの焼かれた肝とアマダイの切り身とすり身を抱き合わせて玉子で固めた蒸し物、翌朝のアジの開きというサッパリ系がいちばんうまかった。

 ふだんは朝方に寝る生活の俺だが、旅行になるとやたらと早く目が覚めるので、朝食までの間、周囲を散歩したりするのだが、さすが寝不足が続いたせいで、今回は5時過ぎに目が覚めて、部屋からの眺望をひと愛でしてまた布団にもぐりこんだらぐっすり寝てしまった。
 で翌日は、軽く磯遊びしたあと、土肥の金山の跡地の記念館を観光して砂金採り体験というお決まりコースで、砂金粒5つをget。これでも数百円にはなるんだろうか。土肥の金山が昭和42年まで掘られていたという社会勉強もさせていただいた、ふ〜ん。そういえば、江戸時代の土肥のジオラマなんかもあったが、やはり遊女街というのは川を隔てた向こう側にあるんだね。神社や金貸しなんかも。生産の場と消費の場ははっきり区別されているわけだ。消費の場はまた死に近い場でもあるわけで、こういう区割りというのは、わかってはいても見るたびに妙に納得するのである。江戸の向島とは規模も違うが、かえってこのくらい小さな町のほうが、濃密な物語が生まれそうな気がする。

 ってなわけで、来たコースを逆にたどって17:24三島発の新幹線で帰京。

 個人的に、ひじょうに興味を持った場所があるのだが、それはまたこんど。