気になる場所
で、今回の旅行で気になった場所というのは、じつはある集落なわけ。
西伊豆の海岸線を走るのは二十年ぶりくらいだが、この間にずいぶん集落の景観が変わっている。古いつくりの家々がどこにでもあるような建売風の家に変わっているのがその大きな要因。けっして古くて鄙びていればいいという都市生活者の一方的な価値観の押し付けなどではなく、景観行政に積極的だったはずの西伊豆の自治体としては、ちょいとお粗末な有様であった。まあ、そちら方面に予算が回らないという昨今のお役所の財政事情もあるだろうが。たしか建築家の石山修武が松崎町の長八美術館を設計したころ、どこの集落かは覚えていないが、石山の提案で屋根をオレンジ色に統一してそれが景観だなんてアホな試みをしていた(させられた?)集落があったと記憶しているが*1、そういったことは論外としても、景観保全というならもう少し気を使ってもいいとおもう。たとえば、地元の建築業者を優遇するとか…。しかし、これもやはり都市生活者の視点なんだろうな。
なんてことを、考えながらバスから集落を眺めていたら、土肥町のすぐ南に位置するある集落に目が釘づけになった。まず目についたのが、集落の中央あたりの海を眺望する小高い丘の上にある墓地。たぶん50坪ほどだろうか。よく見ると、その南側の丘の上にももう少し広い墓地がある。つまり、集落のいちばん高いところに2つの墓地が陣取っているわけだ。もちろん、こういった海を生活の糧としてきた集落では、死者の場が海を臨む場所に位置すること自体はそれほど珍しいことではないが、この2つの墓地がこの集落にある種のゲニウス・ロキ(地霊≒土地の物語)を感じさせる要因になっていることは間違いない。
そして、集落全体を見渡して気づいたのは、この集落の住居のほとんどが木造の在来工法で建てられていることだ。築年数が浅いとおもわれる家屋も、ハウスメーカーではなくおそらく地元の建築業者がこの地域で培ってきた意匠・工法で建てられている。なぜこの集落だけが?
……この集落の海岸線は砂浜はないから海水浴客目当ての観光産業があるわけではないし、かといって磯に作られた小さな漁港もないから、漁業を主な生業としてるような集落でもなさそうだ。あとで調べてみても、この集落には民宿もない。土肥のすぐ近くで、これほど整った本来的な意味での(記憶が蓄積された)景観のある集落なら、民宿の2つや3つはあってもよさそうなのだが。砂浜がないとかいった理由だけではない、何かがありそうな集落なのだ。
そんなわけで、この集落はこの地域でも特別な何かをもっている場所ではないかと勝手に想像しているが、これも少なくともネット上にはそれらしい情報はない。唯一ヒットした情報は、この集落が『世界の中心で愛を叫ぶ』のテレビドラマ版のロケ地のひとつになっているということ。おそらく、古い西伊豆の景観を探したらここだったということだろう。
もちろん、バスの窓越しに行き帰りに2度見ただけだから、それ以上のことはわからない。家族連れではなかったら、間違いなくそこの停留所で降りて集落を歩き回って何某かの手がかりを探していたところだったが、残念だ。
機会があったら、今度はそこを目指してみることにしよう。
あ、集落の名前まだ書いてなかったね。土肥町大久保という集落です。