マシュー・ボーンの「白鳥の湖」

前回の来日公演で何かと話題だったので、マシュー・ボーン振付の「白鳥の湖」を観に行く。白鳥をすべて男が演じるというエキセントリックな振付・演出で、英国の王室批判的な要素や同性愛的な要素、風俗なども盛り込まれており、けっこう楽しめた。ちょっと演出過剰な気もするが、オデットもオディールも登場しない舞台に観客をひきつけることを考えると、あれくらいでちょうどいいかもしれない。物語は原作の要素はほとんど見られず、舞踏会などの物語からすればどうでもいい背景的な要素で参照される程度。なにしろ、箱入りで小心者の王子が不器用に傷つき、幻想の中のひとりの白鳥に導かれて自由を獲得するかに見えながら、最終的に王子は現実から隔離、仲間に殺された幻想の中の白鳥に抱かれて共に昇天する、という大胆な翻案による物語なのだ。けっきょくは、退行的な救済劇ではあるのだが、それと野性味をのぞかせる振付による白鳥たちの対比が面白い。それにしても、古典的な演出による「白鳥」ってビデオでしか見たことないな。以前に舞台を観たのは10年程前のノイマイヤーの振付によるものだったし。