5670+WE396A/PPPのパーツのことなど

LucyブランドのPPPアンプのほうもエージングがほぼ終わりに近付いてきたので、この辺りで一応まとめておこう。Lucyさんからお借りした試作機の印象は10月24日に書いたが、これはこれでとてもバランスがよくまとめられていて、低域から高域までほころびがない。傍熱MT管出力によるPP回路のアンプにもかかわらず、大型直熱管シングルみたいな音がするし、PPのメリットと言われる低音の力感もある。ほんとうに、4cmにも満たない小さな球から出てくる音とは思えない。――で、その後、Lucyさんと何度かお話しして「どうせならもっと自分の指向する音にもってきましょうよ」とうことになった。某蛇に怖じずとはこのことで、試作機よりももっと高域に艶が欲しいだの、中域の質感が欲しいだの、ピアノで言えばSteinwayじゃなくてBoesendolferの音が好きだの、低音が締まらなくちゃダメだの、木管の音の輪郭が明瞭でしかも音の陰影が豊かでなきゃダメだの、弦楽器のザワザワした感触が欲しいだのetc…、それこそ言いたい放題の要求を突き付けて、パーツの選定をしていただいた。当然、相反する要素も含まれるわけだからそれらの最大公約数的なところが落としどころな訳だが。で、その結果、使用したパーツは以下の通りになった。
[コンデンサ類]・初段カソードパスコン=OSコン ・初段カップリング=NCC松尾電機)の錫箔 ・位相反転段カップリング=Fuji ESCON(アルミ箔?) ・出力段カソードパスコン=spragueのオレンジ電解コン [抵抗類]・初段カソード=Vishay ・出力段カソード=Dale/RS2B ・それ以外はすべてKeyとMepcoの金皮
と、まあこんな感じ。余分な回路をカットしたシンプルな設計だからよかったが、あれこれ物量を注ぎ込んだ回路だったらとんでもない金額になるパーツたちである。しかし、ここでケチってあとで後悔するのは嫌だしね。
で、音のほうだが、結果から言えばよくもまあ、あれだけ言いたい放題だった要求をほぼ満たすくらいの音に仕上がったものだと、感心するばかりだが、エージング段階はかなり変化が激しく、評価に窮した。たしかに、エージング開始当初から試作機と比べれば音の質感が見違える程よくなったし、音の厚みも加わったうえに引き締まった中低域を聴かせてくれた。譬えて言えば、同じレシピをあり合わせの材料で見習いが作ったのと、一流シェフが素材を厳選して作ったのとの違い位の変化があった。とくに、チェロなど倍音を含んだザワザワした感じもよく出るし、存在感も豊かで音の輪郭もしっかりしているうえに艶もある。しかし、高域がまったくダメだった。弦楽器もヴィオラから下の音域のリアルさに比べて、ヴァイオリンの上のほうなどくすんだ響きで、いまひとつ乗り切らない感じだし、高域に力がないために、金管楽器木管楽器が前に迫ってこないし輪郭もボケ気味だ。弦楽器ばかりが前に出てきて、木管を含めた管楽器は遠くで鳴っているのである。よく聴くとけっして鳴っていないわけではないのだが、いってみれば「この根性なし!」というような高域なのだ。たぶんそのために、上下の定位もうまく出ず、下のほうで音が鳴ってる。――というのがエージングの第1段階。「初段のカソードにVishayの抵抗を使って高域が伸びすぎることはあっても、その逆は考えづらい」ということなので、しばらく様子を見る。翌日、早くも変化が出た。どうも、このパーツの組み方は低域から高域に向けてエージングが進むようだ。まず、ヴァイオリンの音のくすみがとれ弦楽器のバランスが良くなった。管楽器も音の輪郭は出てきたが、まだ遠い(第2段階)。で、3日目、ほぼ15時間を過ぎたあたりから俄然、高域に力が出て、低域から高域のバランスがとれてきた。あとは、楽器の質感が低域から高域まで均一に整うのを待てばいい(第3段階)。……というような経過をたどって、多少変化はあるものの、ほぼエージング完了している。
長くなってしまったので、総合的な評価は明日に。