5670+WE396A/PPP(続き)

というわけで、エージングのほぼ終わったPPPだが、すっかりこいつの音にはまってしまっている。製品づくりのプロじゃないが故に妥協がないアンプづくりを続けてきたLucyさんも自分で作られて驚いたそうだが(リンク先のblog参照)、彼のその姿勢の通り、このアンプの音には一点の曖昧さもない。汎用に近いパーツで組まれた試作機を聴いたときも一貫性のある音だったが、パーツをモディファイしてもらった音を聴くと、彼の耳の確かさがほんとうによくわかる。ひと言でいえば、楽器の生の音をよく知っている人が作った音だ。雰囲気や"らしさ"といったところが皆無で、再生される楽器の音の肝の部分がちゃんと理由があった上でそのように鳴っている。たとえば、同じコンサート会場で音楽を聴く場合、どの席が自分の好みに響くかということは個人的な趣味の問題で、そこに鳴っている楽器のリアルさは変わらないように、このPPPアンプの音が自分の好みからずれることがあるとしても、それは趣味の問題にすぎず、実際に再現される音楽のリアリティには関係がないということを強く意識させるために、とても強い牽引力で音楽に引き込まれる。実際、これを聴いた後にMC805AAやTU-873LE聴くと、楽器の輪郭や肌理が甘く聞こえるし雰囲気によってしまうために、どこか物足りなく感じる。低音の力感だってこいつのほうがあるし、分解能も高く音の重なりがうまく再現される。Lucyさんが冗談まじりに「メインシステムの座を奪うよ」と言っていたことも、かなり本気だったことがよくわかる。Lucyさん自身、何台も805や300Bを使ったアンプを作られてきたというから、もちろんMC805AAやTU-873LEだってモディファイすればいま以上の音になることもわかっていて、一定水準の平均的な音づくりやコストを考えたメーカー製品の弱点を見事についた発言だったわけだろうが。
読み返してみると、具体的な音についてはほとんど書いてないが、なんかいちいちあれこれの音がどうのとか音の特徴なんかを書くのが、あまり意味ないような気がするのだ。たかだか1.5W程度の出力しかないアンプのパワー面での非力を取り上げて、オーケストラのffの広がりがいまいち不足だとかいうことも。ただ、これまで言っていない大きな特徴をひとつあげれば、楽器の音がひじょうに近く感じられること。ホールで言えば2階席から1階のステージに近付いた音といった感じかな。そこで楽器が何をやっているのかがよくわかるのである。