もしもピアノが弾けたなら…
残念ながら俺はピアノがほとんど弾けない。ステレオもラジオもないという希有な環境で育ったのだから、当然ピアノだってあったためしがない。中学や高校の放課後にこっそりピアノを独学したことはあるが、たかがしれている。
だから、ときどき、老後の楽しみにピアノを弾くのもいいな、とおもったりする。幸いロハで教えてくれそうな知り合いもいるしね。ピアノを教わった日には、手料理とそう高くもないワインをふるまって、音楽を聴いて過ごすというのもいいだろう。
で、なにを弾きたいかというと、けっしてモーツァルトだのベートーヴェンだのではないし、ましてやショパンなどではない。メシアンやブーレーズなんか弾けたらカッコいいが、弾けるようになるまで生きている可能性はゼロに近いし、縦しんば弾けたとしても、だれが聴いたって"まともな"音楽になるはずはなく、家族やご近所に迷惑かかるだけだ。
じゃあ、なにが弾きたいかというと、ビル・エヴァンスの「Alone」のベタ・コピーを弾きたいわけ。どうせ、クラシック音楽や現代音楽もののピアノは耳があやしくなっても、あれこれ批評しながら聴いてるに違いないから、自分で弾く対象にはならない。むしろ、形式だとか構造だとかに気をつかわなくていいエヴァンスの感覚的なピアニズムを自分なりに体感できたら、それはすっごく気もちいいとおもうのだ。まあ、それだって可能性はごく低いが、そのくらいの夢はもっていたいとおもうのだ。
さらに夢を広げて…、余裕があればバッハの平均律。人生の終盤に和声と対位法のバイブルを弾きながら、バッハ以降の作曲家はみんなこいつを弾いていろんなことを考えたのだろうな、などと音楽の歴史に想いを馳せるのも魅力的である。
しかし、めでたくピアノを修得する手はずが整ったところで、じゃあどこにピアノを置くんだ、という非常に現実的な問題が浮上してくるのだけども。
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