Neigeの音に驚く

 khimairaさんのLM3886を使ったパワーアンプ基板"émeraude"は、基板は組み上げているが、これはかなり高温になるというので、放熱対策を施したシャーシに入れないといけないのだが、その前に試聴用にお貸しいただけるということで、khimairaさんご本人からその基板を使った完成品"Neige"をお借りした。写真を見ていただければわかるようにひじょうにコンパクトで、H90×W110×D120しかない。これでトランス内臓である。このサイズに収めるための奮闘記はリンク先に書かれているが、それこそ安直に"Small Cube"とでも名づけたくなるコンパクトさだ。あまりの小ささに、ごっつい電源ケーブル(Camrlot:PM650)やスピーカ・ケーブル(MIT:Avt2)をつなぐのにひと苦労する。khimairaさんが昨日の記事に書かれているように、スリムで使いやすいケーブルがほしくなる。とくにMITのケーブルは硬く太いので厄介。少々ケーブルに負担をかけるような接続になってしまったが、しかし、MITのスピーカ・ケーブルは気に入っていてぜひこれを使いたい。見た目は、身長の低い小学一年生がでっかいランドセルを背負っているイメージだ(笑*1
 で、試聴開始。…khimairaさん、ゴメンナサイ。基板を組みながら「この小ささで、本当にいい音がするんだろうか」と少しでも疑ったのを許してください! もちろんkhimairaさんが設計するのだからいい加減な音だとは決して思わなかったけど、「サブで、そこそこ使えればいいかな」と考えようとしたわたしを許してください!…という侘びを入れたくなるくらいの音で、そんな愚かな疑念はものの数秒で吹っ飛んでしまった。あまりにツボにはまって、試聴用にこれまで使ってきたCDのほとんどをかけまくったら、昨日は朝になってしまった。
 
 まず音の美しさに驚いた。美しいというのは美音系ということではない。音にまったくといっていいほど雑味がないのだ。それもよくある石アンプのような無機質さとはまったく違う。この音の透明感はどこから来るのかとしばらく聴いているうちに、音そのものがかもし出す空気感がすばらしいということに気がついた。この雑味のない透明感と空気感というのは相関的な関係で、たとえば広いコンサートホールの空間であじわう音の伝わり方に近いものだ。それは音のレスポンスの早さに関係しているようで、このレスポンスの早さが高い分解能(解像度)と透明感を生み、その音の空間における分布が空気感となって現れれくるようにおもう。したがって、当然、空間再現性や音の定位もすばらしく、オーケストラだったら前後左右の空間の広がりと楽器の位置がぴったり決まる。音像もけっして輪郭がぼけないし、ありがちな楽器肥大な音に聞えることがない。大オーケストラがffで鳴っても音がごった煮状態にならす、コンサートホールにおけるように、それぞれの楽器の音がそこに在るように聞こえる。これは、かなり高額なアンプじゃないと再現できないことだとおもう。
 とにかく、高域がこれほど素直に濁りがなく潤いをもって伸びる音を、少なくとも俺のシステムでは聴いたことがない(オーディオショップの俗にいうハイエンドのシステムでは聴いたことがあるが)。ピアノのヴァイオリンのデュオの音を聴いていて、ジーンと涙がにじんできたくらいなのだ。大げさかもしれないが、俺のシステムでこういう経験はしたことがないので、その生理的な反応に自分でも驚いた。中域から中低域にかけてもまったくだぶつかず、しまりがありながら浸透力にとんだ音を聞かせてくれる。――ただ、欲をいえば、コントラバスなどのズンと沈むような低域にもう少し厚みというか力がほしい気がする。しかしこれもありがちなただ鈍いドローンとした低音が迫り出せばいいというのではなくて。これはkhimairaさんのDAC(AQUA)にも共通する特徴だが、けっして低音が出ていないのではないのだ。芯のある低音が沈み込んでいることは、たとえばコントラバスppのピツィカートなどを聴けばよくわかる。
 もちろん、いま書いたことは、俺のオーディオ環境におけるごく主観的な印象である。
 それにしても、部品数が50個そこそこのアンプ基板から、どうしてこれほど高品位で表現力の豊かな音が出るのか、不思議でならない。これはぜひとも自分で組んだ基板を早くシャーシに入れてあげないといけないな。

*1:ランドセルといったのはあくまでイメージで、MITのあのブラックボックスを指しているのではない。あれはスピーカ側にあるものでアンプ側にはない