奥さんのこと(3)
というわけで、うちの奥さんネタの続きである。
前回も書いたように、彼女はクラシック音楽に詳しくはぜんぜんない。鳴っている音楽が「好きか、嫌いか」という感覚的な判断が何よりも優先される。とくにCDを聴くときはそうだ。連れだってナマを聴く場合には、こちらが経験値からあらかじめ「これならいいだろう」という曲目がメインのものを選ぶから満足する確率は高いし、独特の劇場の雰囲気が好きから多少はずしても満足する。ときには、「わたしも行きたい」というからいっしょに行ったパトリス・シェロー演出のベルクのオペラ「ヴォツェック」のように、大不評を買うこともあるのだが(わかる人にしかわからないだろうが、先を急ぐ)。
そんな奥さんが、ワインを一本ほど空けたところで、チャイコフスキーの「悲愴」交響曲が聴きたいと言いはじめた。アルコールを飲みながら聴く曲ではないと思うのだが、わたしのライブラリーから預けているカラヤン/ベルリン・フィルとザンデルリンク/ベルリン交響楽団という2つの「後期3大交響曲」セットに入っている「悲愴」がしっくりこないらしい。なるほど、カラヤンとザンデルリンクでは行書体と楷書体ほど演奏スタイルは異なるけれど、重厚長大路線ということでは共通している。そこで選んだのがこれ。
- アーティスト: ギーレン
- 出版社/メーカー: インポート・ミュージック・サービス
- 発売日: 1994/03/25
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こと左様に、たとえばオーディオの音を聴いても、ふだんはまったく音に頓着しないにもかかわらず、新しい機材が入ったときなど「で、音はどうなったの?」ときいてくるが、俺がこうこうこういうようになった、というよりも彼女が聴いたときに言うひとことのほうが、よほど的確であったりするからやりきれない。
ほんと、言語的な観念や分析的な思考をいとも簡単に飛び越えて、直観的な判断に至る女性の能力というのには驚くしかない。